技術職からタクシードライバーへの転身を決意した時、周りからは様々な声が聞こえてきました。「なぜ今更」「安定した職を捨てて」。そんな不安の声を聞くたびに、私の心にも迷いが生じていました。
しかし今、15年のタクシードライバー経験を経て、しみじみと実感することがあります。「雨降って地固まる」という言葉の持つ深い意味を。
この「雨降って地固まる」ということわざ、もともとは農業の世界から生まれた言葉です。雨が降ることで、一時的には地面が荒れてしまいますが、その後、土が引き締まってかえって丈夫になる―という自然現象を表しています。
私の転職も、まさにその通りの道のりでした。最初の半年は、道に迷っては謝罪の日々。売上も伸びず、時には「本当にこの選択は正しかったのか」と自問自答する夜もありました。しかし、その苦労の一つ一つが、今では私の大切な糧となっています。
道を間違えた時のお客様との会話から、街の裏道を覚え、謝罪の経験から丁寧な接客の重要性を学びました。売上が伸びない日々は、効率的な営業ルートを考えるきっかけとなりました。
いま思えば、あの「雨の日々」があったからこそ、私のタクシードライバーとしての基礎が「固まった」のだと実感します。工場での技術職経験も、正確さと丁寧さという形で今の仕事に活きています。
人生には誰しも「雨の日」があります。新しい挑戦の途中で、困難に直面することは避けられません。しかし、その苦労や困難は、実は私たちの人生の地盤を固める大切な過程なのかもしれません。
このことわざは、単なる「困難の後には良いことがある」という楽観的な意味だけではありません。困難そのものに、私たちを成長させる大切な意味があることを教えてくれているのです。
今、タクシーの車窓から雨の街を眺めるとき、私は思います。人生の雨は、決して無駄ではない。その一滴一滴が、私たちの生きる地盤を、確かに、そして静かに、強くしてくれているのだと。